祈りや儀式のなかで、自分の意識が深く切り替わる瞬間がある。

静かなのに、力がある。身体はゆるんでいるのに、意識は鋭い。僕はこれまで、その状態を「ゾーン」や「変性意識」という言葉で語ってきた。

けれど、それはあくまで自分の内側の感覚だった。

今回、医師に脳波と自律神経のデータを見てもらう機会があった。そこで交わされた20分の会話は、僕の感覚を科学が証明した、という話ではない。感覚に、測定という別の角度から輪郭が与えられた記録だ。

01

「両側が同調している」

録音の冒頭、データを見た医師は「コヒーレンス」という言葉を口にした。続けて、両側の脳波が同調しているように見える、と説明した。

さらに、自律神経の表示について、交感神経と副交感神経の両方が上がっていることを指摘した。

交感神経は活動や緊張、副交感神経は休息や回復と結びつけて語られることが多い。その場では、両方が高い状態を「リラックスしていて、集中している」「ゾーン状態に入る作法のようなもの」と表現していた。

静かなのに、力がある。
休んでいるのに、醒めている。

僕が内側で感じていたものと、その言葉が重なった。

02

測れたものと、
測れなかったもの

大切なのは、この測定だけですべてが分かったわけではないことだ。

会話のなかでも、僕は「自律神経と脳波で全部が分かるとは思っていない。これはほんの一部だ」と話している。ただ、脳波や自律神経は、一般の人や医療・科学に関わる人とも共有しやすい言葉になる。

今回の機器では、僕たちが関心を持っていたガンマ波までは測定できなかった。ガンマ波と祈りや瞑想をめぐる話もしたけれど、それは測定結果ではなく、対話のなかで生まれた仮説である。

測定中に何をしていたか、開始から何分後にどんな状態へ入ったかという記録も取っていなかった。条件を統制した研究ではなく、一度の測定と対話だ。ここは曖昧にせず残しておきたい。

03

その場でAIにも
読ませてみた

会話の途中、測定内容をその場でAIにかけてみることになった。終盤で読み上げられた詳しい「三つの特徴」は、医師が独立して作成した正式な診断文ではなく、AIがデータの説明をもとに生成した解釈だった。

  1. 01

    交感神経と副交感神経が
    同時に高く出ていること

  2. 02

    覚醒に関わる帯域を保ちながら、シータ波やデルタ波のような深い状態に関わる帯域も見られること

  3. 03

    深い状態に入っても、全体のエネルギー指標が大きく崩れていないこと

AIはこれを、覚醒と深い変性意識を切り替える「統合パターン」と読んだ。

この解釈は興味深い。ただし、AIの文章は医師の診断でも、学術的な結論でもない。データをどう読むかの仮説として、医師の直接の観察とは分けて受け取る必要がある。

04

それでも、僕が
嬉しかった理由

会話の中で、僕はこう話している。

ゾーンに入っていたのが、
ちょっと証明されたのが
嬉しいです。

— 20分の対話より

今なら「証明」という言葉を、もう少し慎重に言い換えたい。

証明されたというより、僕が長いあいだ身体で覚えてきた状態に、測定可能な変化が伴っている可能性が見えた。それが嬉しかったのだと思う。

僕は、これは選ばれた人だけの能力ではなく、訓練によって多くの人が近づける技術なのではないかと考えている。祈り、呼吸、瞑想、音、場をつくること。世界の伝統文化が培ってきた知恵を、神秘のまま閉じ込めず、測れるところから丁寧に見ていきたい。

05

次は「再現できる
記録」へ

次に測るなら、儀式や呼吸を始めた時刻、意識が切り替わった感覚、音や祈りのピークを同じ時間軸へ記録したい。安静時との比較、複数回の測定、リアルタイムの変化、測定機器が扱える周波数帯も確認する。

一度の印象的なグラフを、物語だけで終わらせないためだ。

祈りの意味を、数字だけで決めることはできない。けれど数字は、異なる世界観を持つ人どうしが話し始めるための橋にはなる。

今回見つけたのは、答えではない。

僕の内側で起きていたことと、外側から測れたこと。
その二つが初めて、同じテーブルについたのだ。

20分の元記録を見る